近江歴史回廊倶楽部

  歴史解説・紹介

      蘇民将来子孫の家
       
〜伊勢地方の注連飾り


 9月5日の第3回例会バスツァーで伊勢に行った。その準備で下調べをしたところ珍しい風習をみつけたので皆さんに紹介しよう。

 伊勢地方の正月飾りの注連縄には、四手(しで)、ユズリハ、ヒイラギ、ウラジロ、ダイダイの実などがつく。それに独特の「蘇民将来子孫家門」と書かれた板の札も真ん中につける。

 

それを年の暮れに飾り、家に死人が出ない限り一年中外さず、大晦日に大かがり火で燃やす習わしである。他の地域からの観光客などは一年中軒下に掛けられている注連縄を、他ではあまり見られない風習とあって珍しそうに眺めて通る。

「蘇民符」の由来は、スサノオノミコトが旅の途中、蘇民(そみん)将来と巨旦(こたん)将来という兄弟の家に一夜の宿を求めたが、富貴な弟は断り、貧しい兄の蘇民が暖かくもてなしてくれたので、「悪病が流行する時は貴方の子孫の家はきっと守ってあげましょう」と約束してくれたという伝承による。「備後国風土記逸文」にも出ている話が、この地方にも伝わっているのだ。

「笑門」と書く家も多い。古くは「将門」と書いたが、平将門(たいらのまさかど)と関係するように勘ぐる人が出て「笑門」となったともいう。

これは「笑う門には福来たる」という諺によるのだろうが、「蘇民将来子孫の門」が略されて「しょうもん」になったものだろう。商家は「千客万来」とも書く。

今ではほとんどが市販されたものを使うが、昔は自家で書いた。蘇民符の裏面は見えないが、道教の呪文を書く。これはドーマン・セーマンなどと呼ぶ魔除けの印と「急々如律令」という呪句とを記す。市販品には書かれておらず、各自の家で前年の札を見ながら書くのだが、なんとこれは中世の文献にも登場している。

律令とは刑法や行政法のことで、昔の庶民にとっては執行が早く怖い存在であったことから、その律令のごとく至急に魔物たちは退散せよという意味であろう。

さらに蘇民符の上部か四隅に「ン」と「く」を一文字に合わせたような「ンく」の印が打たれる。これが何かわからなったが調べてみると室町時代の石碑や暦などによく出てくる。

まだはっきりとは分からないが、「四」の字の略で、四天王寺の守護だとか、「以」と言う字の略されたもので宇宙を意味し、天の神の意味だとか、道教のまじないだとか、「水」の字の略で火災除けだとかの説がある。

わが家も、蘇民将来之子孫也と書かれた赤い札をつけたちまきの束を、祇園八坂神社からいただいて、門口に貼り付けてあるが、地方によって様々な形の風習となっていくものだと感心している次第である。

参考資料 角川選書 矢野憲一「伊勢神宮 知られざる社のうち」
 




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