近江歴史回廊倶楽部

歴史散策・随想


   祇王井川 (1)


 「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけむ 遊ぶ子供の声きけば 我が身さへこそ揺がるれ」本当の今様のメロディはどの様なものだったか。

映像の如く時代を反映しゆったりとして幽玄のものだったろう。NHKの大河ドラマでは白拍子が一方の主役だ。今日は日和もよい。妻に誘われ妓王寺観光という事になった。

さて銅鐸博物館の妓王展で予備知識を十分にしてから、パンフを手に妓王寺に向かう。妓王母子・仏御前とも嵯峨野に隠棲したのであるから、ここに定住していた訳ではなさそうだが、いかにもの佇まいである。

姉妹が育った屋敷跡を見に行く。父橘次郎時長は北面に仕候していたとガイドしている位だから、当時で言えば「富豪の輩」といわれる無骨な「兵(つわもの)」の館を想像する。

「男衾三郎絵詞」という有名な絵解き説話が存在するが、丁度そのような壮大な屋敷がここにあったのであろう。ただ彼は、保元の乱で戦死したと書いてある。どちらに付いたのかは説明されていないが、姉妹のその後の運命で想像する事は出来そうである。

かって野洲川の右岸(野洲市側)は広大な氾濫原・湿地帯であったと聞いた気がする。
伊勢遺跡・下之郷遺跡は左岸(守山市側)にある。対岸は弥生農地に適していたのだろう。

ある郷土史家の説によると東山道はここを渡らずに石部に周り菩提寺あたりで渡河、山越えで大篠原に達したという。その後の中山道も湿地帯を通らず鏡の峠越えをしている。それなら、ここに大規模な排水溝を設ければ、広大な墾田が得られる筈である。

そう想像を逞しくしながら妓王が清盛に懇願してできたという祇王井川を見に行った。
場所は、冨波甲である。明治の地籍では1丁目2丁目と言わずに、甲乙丙丁などと言ったそうであるから甲は番地の事だろう。

冨波!トバ口などというから、何かの入り口にある村のことかな?それとももしかしたら、この辺り鳥羽院の荘園だったのかな?土地の豪族が湿地帯に排水溝を通して墾田に変える。それを院に寄進して荘園の下司になり、六位を貰って武士として認められる。

妓王の父もそれかな?とも思う。もしそうなら在所にとって姉妹は恩人の子供だ。なんやかんや考えながら、取り敢えず祇王井川に到着する。

                          祇王井川


思ったより立派な用水路だ、しかもかなり低く掘ってある。国土地理院の2万5千分の一地図で流路を確認する。

現在では野洲川の川床が低くなって、かっての湯口からは取水できず、石部頭首工から延々引いているようだ。 
                                           生和神社
橋上に車を置いておく訳にも行かないので近くの神社に駐車する。生和神社である。古の人工水路には、大抵、水路を作った豪族を祀る神社か寺があるものだ。神社縁起を見てみる。

祭神は住吉大神?事代主命?などと予想していたら、なんと藤原忠重とあった。全く聞いたことのない名だ。由緒碑には、この辺りは藤原氏の荘園で、忠重公は当地の大蛇を退治したと書いてある。

大蛇の話は、水害の事であろう、一族がここ低湿地帯の開拓に務めたのであろう。家に帰って、インターネットで藤原忠重を調べてみる。忠重という人、実在の人物として平安末期の歴史専門家には、大変重要な人物らしい。

1164年頃に発行され、熊野大社に残る古文書、長寛勘文(ちょうかんかんもん=鳥羽院が熊野別当に寄進した甲州八代荘を、帝の宣旨で国衙が奪った事件の争論に関する報告書)に登場する。
ただしこの当人が生和神社の祭神と同一人物かどうかは確認できない。

年表を追ってストーリーを組み立てる。

・寛弘6年(1009)生和神社由緒に藤原忠重赴任
・延久元年(1069)後三条〜白河院政荘園整理令
・1151〜1156 熊野権現寄進・鳥羽院庁下文
・久寿2年(1155)近衛天皇崩御、後白河即位
・保元元年(1156)鳥羽院崩御。保元の乱
・保元3年(1158)後白河天皇退位。二条即位
・平治元年(1159)平治の乱。天皇、院と対立
・応保2年(1162)甲斐守藤原忠重 天皇宣旨により目代中原清弘・在庁官人三枝守政に命
じ熊野神人を暴行して八代荘を奪う
・長寛元年(1163)国司と熊野の争論開始
・長寛2年(1164)藤原忠重敗訴。長寛勘文
・仁安2年(1167)平清盛太政大臣。平家全盛

長寛勘文の結果は、その後の政局に大きく影響したとされている。
まず第一に(鳥羽)院の下文が(二条)帝の宣旨に優先した事である。


                                                (上嶋)


  

無断転載を禁じます Copyright(C) 2005 Oumi Rekishi Kairou Club. All Rights Reserved.